豊橋市議の長坂です。
AIの進化が望まれます。
さて、中止になった芦原での報告会。
5名ほどの方がいらっしゃり申し訳なし、ありがたし。
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報告会での資料作成のため、ユニチカ跡地裁判(住民訴訟)の判決文を全文テキスト化しました。
手法は、前回第一審と同じくグーグルドライブ活用と、人力(目視)での誤字脱字確認です。
目視では「土地」が「士地」になっていたりもしました。
間違いを見つけたら訂正しますので、教えていただければ幸いです。
議会事務局より提供のあった判決の原文(PDF)はこちらのドロップボックスからダウンロードできるようにしました。
https://www.dropbox.com/
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全29ページでかなり長いため、先に構成をお伝えします。
時間のない方は「主文」と最後の「第4 結論」、
次に「第3 当裁判所の判断」の順でご覧いただければよいかと存じます。
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読みやすさのため、以下注意(原文からの変更)事項です。
https://yunichika.jimdo.com/経過-資料/
では、以下全文です。
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全文読んだあなたはすごいです!
では!
AIの進化が望まれます。
さて、中止になった芦原での報告会。
あいちトリエンナーレの余波(?)で、僕の市政報告会(8/8芦原校区市民館)が中止になりました。 - 愛知豊橋市長坂なおと のblog周知不十分で、いらっしゃった方のために、当日19時半頃まで市民館の前で待機していました。
http://nagasakanaoto.blog.jp/190806.html
5名ほどの方がいらっしゃり申し訳なし、ありがたし。
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報告会での資料作成のため、ユニチカ跡地裁判(住民訴訟)の判決文を全文テキスト化しました。
手法は、前回第一審と同じくグーグルドライブ活用と、人力(目視)での誤字脱字確認です。
グーグルのAIに、豊橋ユニチカ跡地裁判の判決文を読んでもらった結果。 - 愛知豊橋市長坂なおと のblogですので、間違いがあるかもしれません。
http://nagasakanaoto.blog.jp/180218.html
目視では「土地」が「士地」になっていたりもしました。
間違いを見つけたら訂正しますので、教えていただければ幸いです。
議会事務局より提供のあった判決の原文(PDF)はこちらのドロップボックスからダウンロードできるようにしました。
https://www.dropbox.com/
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全29ページでかなり長いため、先に構成をお伝えします。
時間のない方は「主文」と最後の「第4 結論」、
次に「第3 当裁判所の判断」の順でご覧いただければよいかと存じます。
表紙(事件名など)
主文
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
第2 事案の概要
1 本件は、~
2 前提事実、争点及びこれに対する当事者等の主張3 当事者等の当審における補充主張
(1)争点(1)(補助参加人は、本件売却土地が売却された時点において、豊橋市に対し、本件売却土地の全部又は一部を本件契約12条の「敷地の内で使用する計画を放棄した部分」として返還すべき義務を負っていたか。)について(被控訴人らの主張)(控訴人の主張)(補助参加人の主張)(2)争点(2)(補助参加人が上記(1)の返還義務を負っていた場合、返還すべき土地の範囲及びその損害賠償額はいくらか。)について(被控訴人らの主張)
(控訴人の主張)
(補助参加人の主張)
第3 当裁判所の判断
1認定事実(1)補助参加人が本件各土地を利用するに至った背景(2)本件覚書及び本件契約の締結等
(3)本件契約の締結当初における本件各土地の利用状況等
(4)本件協議書の作成等
(5)平成18年における豊橋市議会での質疑
(6)本件売却土地の売却の前後における事実経過
(7)総社市の場合
2 争点(1)(補助参加人は、本件売却土地が売却された時点において、豊橋市に対し、本件売却土地の全部又は一部を本件契約12条の「敷地の内で、使用する計画を放棄した部分」として返還すべき義務を負っていたか。)について
3争点(2)(補助参加人が上記2の返還義務を負っていた場合、返還すべき土地の範囲及びその損害賠償額はいくらか。)について
4 以上によれば、補助参加人は、豊橋市に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、少なくとも9万m2の土地の売却代金相当額20億9462万5810円及びこれに対する不法行為の日である同土地の所有権移転登記手続が経由された平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負っているというべきである。第4 結論
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読みやすさのため、以下注意(原文からの変更)事項です。
- 適宜、改行をしています。
- 文中の「,(コンマ)」は「、(読点)」に変更しました。
- 数字は全角にしました。
- 一部、太字や下線などを入れています。
https://yunichika.jimdo.com/経過-資料/
では、以下全文です。
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令和元年7月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(行コ)第15号 損害賠償請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成28年(行ウ)第114号)
口頭論終結日平成31年4月23日
判決
愛知県豊橋市今橋町1番地
控訴人
豊橋市長 佐原 光一
同訴訟代理人弁護士
足立 陽一郎
赤本 優
中島 朋子
兵庫県尼崎市東本町1丁目50番地
控訴人補助参加人
ユニチカ株式会社
同代表者代表取締役
注連 浩行
同訴訟代理人弁護士
中光 弘
平山 浩一郎
古川 純平
被控訴人
別紙被控訴人目録記載のとおり
同訴訟代理人弁護士
長屋 誠
川崎 浩二
小林 修
齋藤 尚
菊地 令比等
田嶌 久資
福岡 孝往
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主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人は、控訴人補助参加人に対し、20億9462万5810円及びこれに対する平成27年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求せよ。
(2)被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、補助参加によって生じた費用を除いてこれを10分し、その3を控訴人の、その余は被控訴人らの各負担とし、補助参加によって生じた費用は、これを10分し、その3を控訴人補助参加人の、その余は被控訴人らの各負担とする。
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事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、愛知県豊橋市(以下「豊橋市」という。)の住民である被控訴人らが、控訴人補助参加人(以下、単に「補助参加人」という。)は、原判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)のうち同目録記載2及び10の各土地を除くもの(以下「本件売却土地」という。)を豊橋市に返還すべき債務を負っていたにもかかわらず、補助参加人及びその連結子会社においてこれらの土地を積水ハウス株式会社(以下「積水ハウス」という。)に売却し、上記返還債務を履行不能としたものであり、これは補助参加人による債務不履行又は不法行為に当たるところ、豊橋市の執行機関である控訴人は補助参加人に対する損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、控訴人に対し、補助参加人に対して損害賠償金63億円(本件売却土地の売却代金相当額)及びこれに対する履行期限が到来した後又は不法行為の日である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することを求める住民訴訟である。
原審は、本件売却土地が売却された時点において、補助参加人が豊橋市との間で昭和26年4月3日に締結した補助参加人が豊橋市内に工場を新設するに当たり豊橋市がその工場用地の提供、諸便宜の供与をすることに関する後記の契約(以下「本件契約」という。)により、豊橋市に対して本件売却土地を返還する義務を負っていたか否かについて、「補助参加人は将来本件各土地の内で使用する計画を放棄した部分はこれを豊橋市に返還する。」旨定めている本件契約12条に基づき、補助参加人は本件売却土地の全部を豊橋市に対して返還する義務があったと認めて、被控訴人らの請求を認容した。
そこで、控訴人が控訴した。
2 前提事実、争点及びこれに対する当事者等の主張は、以下のとおり原判決を補正し、3のとおり当事者等の当審における補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2及び3に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁7行目の「である。」の次に、「その後、昭和39年に「ニチボー株式会社」と改称し、昭和44年に現在の商号となっている。」を加える。
(2)同頁14行目の「(当時の商号は「大日本紡績株式会社」である。)」を削除する。
(3)同頁21行目末尾を改行の上、次のとおり加える。
「オ 豊橋市は、昭和40年8月頃、補助参加人に対して、補助参加人が国から国有地として借り受けていた豊橋工場の鉄道引込線用地(1458.45坪)について、国から豊橋市に払い下げる話が出ており、本件契約3条(四)では、用地買収及びこれに伴う費用は豊橋市が負担することになっているものの、その金額が多額に上るなどとして、その費用を補助参加人が負担するよう話を持ち掛けてきた(甲3、丙8の1・2)。
その結果、豊橋市と補助参加人は、昭和41年2月21日、本件契約に関する覚書(以下「昭和41年覚書」という。)により、本件契約3条(四)に記載の鉄道引込線用地のうち、国有地については、同条項によることなく、その買収及びそれに伴う一切の費用は補助参加人の負担とすることとなった(乙4)。」
(4)同頁22行目の「オ」を「カ」と改め、「(当時の商号は「ニチボー株式会社」である。)」を削除する。
(5)同4頁16行目の「同日」を「同月1日」と改める。
(6)同5頁7行目冒頭から同10行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 補助参加人が、豊橋市に対して、本件売却土地が売却された時点において、本件売却土地の全部又は一部を本件契約12条の「敷地
の内で使用する計画を放棄した部分」として返還すべき義務を負っていたか。(争点(1))
イ 補助参加人が上記アの返還義務を負っていた場合、返還すべき土地の範囲及びその損害賠償額はいくらか。(争点(2))
(2)争点(1)に対する当事者等の主張」
(7)同7頁9行目から10行目にかけての「別の覚書(以下「昭和41年覚書」という。)」を「昭和41年覚書」と改める。
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3 当事者等の当審における補充主張
(1)争点(1)(補助参加人は、本件売却土地が売却された時点において、豊橋市に対し、本件売却土地の全部又は一部を本件契約12条の「敷地の内で使用する計画を放棄した部分」として返還すべき義務を負っていたか。)について
(被控訴人らの主張)
ア 本件契約12条によって返還対象となる「敷地」は、豊橋市が補助参加人に提供した本件各土地全部であることは明白であり、本件契約当初使用計画が定まっていなかった部分の土地のみが本件契約12条の返還対象であるとする控訴人及び補助参加人の主張は採り得ない。
そして、本件覚書、本件契約及び本件協議書の文言からすれば、補助参加人が豊橋事業所を閉鎖した以上、補助参加人が自らの意思により本件売却土地を使用しなくなったといえるから、豊橋市に対し、使用計画を放棄した部分、すなわち本件売却土地を返還すべき義務を負うことは明らかである。
なお、放棄の意思表示は、補助参加人が豊橋市に対し、豊橋事業所の全面閉鎖の意向を表明した時点でされたとみるのが合理的である。
仮に、工場等が建設された部分を返還しなくてよいとしても、本件各土地の西側部分の工場敷地部分のうちの工場立地部分以外の部分である野球グランドや陸上競技用トラックなどは、本件契約の本旨に従った使用とは評価できないし、本件各土地の北西部分の土地及び北東部分の土地は、当初から一貫して使用されていないから、これらは返還すべきである。
イ 補助参加人の主張について
(ア)工場等の建設計画が完了した部分は、本件契約12条の「計画を放棄した部分」から除外されるとの主張に対して
本件契約の目的は、補助参加人に工場を建設させることではなく、補助参加人が本件各土地上で工場を操業することによって、契約両当事者が互いに継続的に利益を獲得することである。
したがって、本件契約12条の「計画」とは、補助参加人による本件各土地上での工場操業計画を示すものであり、本件各土地上での事業廃止による本件各土地からの撤退は、本件各土地利用計画の放棄そのものである。
(イ)本件契約12条により建設された工場が廃止された場合にも本件各土地返還を求める旨の合意があったとすることは困難であるとする補助参加人の主張は、いずれも理由がない。
豊橋市の認識として、工場が建設されれば目的が達成されると考えて契約を締結したはずがないし、本件契約が賃貸借契約の形式となっていないこと、所有権移転請求権仮登記が設定されていないこと、豊橋市と補助参加人との間で工場等の建設部分まで無償返還されることの協議、説明がされた形跡がないことなどは、いずれについても、本件契約当時、豊橋市に、工場等が建設された部分については返還されないという認識があったことの根拠とはならない。
(ウ)別件覚書の定めは、操業の全面廃止、完全撤退を想定した条項とも解釈できるが、本件契約12条は、全面廃止に限らず事業の縮小など一部撤退の場合にもその部分に対応した清算ができるように工夫した条項と理解でき、別件覚書との対比をもって、同条が、工場が建設されれば本件各土地を返還する必要がないという趣旨であるとはいえない。
(エ)目的達成により本件各土地の無償返還を求める理由がないとの主張に対して
契約目的達成のために契約の一方当事者において、相手方に多大の利益と便益を継続的に与え続け、その見返りに相当長期間にわたって相手方が操業を継続することにより利益の一部還元を受けることを重要な要素とする契約において、操業の継続が不可能になった段階での清算処理を事前に定めておくことは、契約当事者双方の利益に資するものであって、通常のことであり、本件契約12条はまさにそのような事態が生じたときの処理を定めたものであるから、補助参加人の主張は採り得ない。
(控訴人の主張)
本件契約当時、豊橋市は補助参加人に8万坪余りの土地を提供した。
これに対し、補助参加人は、6万坪程度の利用を考え工場を建築した。
そのため、補助参加人は、本件各土地のうち、本件契約当初には使用計画が定まっていなかった部分の土地(以下「本件契約当時未計画地」という。)2万坪余りが残る状態で工場の操業を開始した。
この部分の返還に関して規定したのが、本件契約12条である。
既に使用計画にのっとり工場等が建築された部分は同条の適用を想定しておらず、同条の解釈には関係ない。
このことは、丙8号証の2(豊橋工場への鉄道引込線用地の払下げに関する書面)に、本件契約書12条により補助参加人が豊橋市に返還すべき対象土地は、約2万坪の本件契約当時未計画地である趣旨の記載があることなどからも明らかである。
そして、豊橋市と補助参加人両者間において、本件契約12条による返還部分は本件契約当時未計画地に関するものであるとの認識は一致している。
このように、本件契約12条が一部放棄の場合のみに適用されると解しても、豊橋市の得た利益、本件各土地の本件契約当時の価値、豊橋市の本件各土地に対する所有権の希薄さ等からすると、全部放棄の場合と比してバランスを失するということはない。
そして、昭和43年の第2工場建設により、本件売却土地に未使用土地はなくなっており、返還すべき土地はない。
(補助参加人の主張)
ア 本件契約前文から3条までの規定で明らかなとおり、本件契約は、豊橋市が補助参加人に豊橋市内で工場を新設させるために、本件各土地を無償取得させる等の便益を提供するという契約、すなわち、工場等が建設されて補助参加人の事業に土地が使用されるのであれば、その部分の土地については、補助参加人が無償で取得する等の便益を提供するという契約にほかならない。
したがって、本件契約12条の「計画」とは、工場やそれに付随する施設を建設する等して補助参加人の事業に土地を使用する計画を意味しており、その計画が実行されて完了したときは、放棄の対象たる計画が存在しないことから、放棄する余地はないので、「計画を放棄した」には当たらない。
「計画の放棄」とは、本件契約当時未計画地を念頭に、工場等を建設する等して補助参加人の事業に土地を使用する計画を放棄したことと解するほかなく、上記文言に、一旦工場等が建設された後に工場等を廃止した場合も無償で返還する旨の合意を読み込むことは文理上無理がある。
また、豊橋市が補助参加人に本件各土地を無償取得させる等の便益を提供するという本件契約の他の条項との整合性、本件契約締結当時の契約当事者の認識、本件契約の目的、本件協議書の作成経緯等からしても、一旦工場等が建設された後に工場等を廃止した場合も無償で返還する旨の合意が認められる余地はない。
したがって、工場等の建設計画完了により、本件契約12条の放棄の対象となる計画は存在せず、本件売却土地の売却当時には、本件契約12条に基づく返還義務はなくなっていた。
イ また、豊橋市としては工場等の建設部分まで無償返還を求める必要がないと認識していたこと、本件契約が賃貸借契約の形式となっていないこと、所有権移転請求権仮登記が設定されていないこと、豊橋市と補助参加人との間で工場等の建設部分まで無償返還されることの協議、説明がされた形跡がないことなどからすれば、本件契約12条により、建設された工場等が廃止された場合にも本件各土地を返還する旨の合意があったと認めることは困難である。
仮に6万坪部分の工場等の建設が途中で中止となり、補助参加人が全部の計画を放棄した場合には、本件各土地全部に適用がありうるものの、本件契約が締結された昭和26年4月3日の時点で、工場等は建設に着手されており、同年12月5日には竣工しているのであるから、全部についての使用計画の放棄という事態はそもそも想定されていなかったはずである。
ウ 補助参加人としても、豊橋市から、工場誘致に際して、工場等を建設して補助参加人の事業に土地を使用する計画が履行されるのであれば、本件各土地を無償で提供されるなどの便益を受けるとの説明を受けていることからすれば、工場等の建設後に将来返還を要するなどと思い至ることはありえない。
本件覚書の表現が、別件覚書の表現と異なり、工場廃止の場合には無償返還するとされていないことからしても、補助参加人が工場廃止の場合に、豊橋市に本件各土地を無償で返還する必要があるとの認識は有していなかった。
エ さらに、豊橋市としては、本件各土地で工場等が建設されれば、莫大な利益が継続して得られるとの認識であったのであり、契約の目的は十分に達成できると見込まれていたといえるから、本件各土地のうち工場等が建設され補助参加人の事業に使用された部分について、無償返還を求める条項を設ける理由はない。
オ 本件協議書の作成経緯からすれば、本件協議書は、本件各土地のうち、本件契約当時未計画地に関する定めであり、これによって、本件契約12条は、工場等が建設されて補助参加人の事業に使用された部分を対象としていないことが明らかとなっただけでなく、契約当事者の認識として一旦工場等が建設された後に工場等を廃止した場合も無償で返還する旨の合意が同条に含まれないことも明らかになった。
すなわち、豊橋市から提示された覚書案(丙8の6の1の「別紙一」)における「乙(注・豊橋市を指す。)は、甲(注・補助参加人を指す。)に対し、原契約(注・本件契約を指す。)第十二条記載の未使用土地(注・本件契約当時未計画地を指す。)の返還請求権を放棄する。
よって、本覚書締結日以降、甲は原契約第三条(一)の(イ)記載の土地について何らの負担のない完全な所有権を取得するものとする。」との条項の存在から明らかなとおり、豊橋市の認識として、工場等が建設されて補助参加人の事業に使用された部分については返還の対象とならない完全な所有権を補助参加人が取得していることは当然の前提となっていた。
同覚書案が豊橋市の提示した案でないとしても、同覚書案作成に至る経緯(丙8の1~5、8の6の1・2)からすると、その結論を異にしない。
カ 本件契約12条は、本件契約当時未計画地約2万坪部分について、補助参加人の事業に使用する計画が履行されず、使用する計画が放棄されるのであれば、豊橋市が取得するという条項であるが、その後、補助参加人が本件契約当時未計画地に豊橋事業所の第2工場を建設したことにより、本件各土地の全てが使用される状態となり、本件契約12条の目的は達成され、同条項は失効した。
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(2)争点(2)(補助参加人が上記(1)の返還義務を負っていた場合、返還すべき土
地の範囲及びその損害賠償額はいくらか。)について
(被控訴人らの主張)
ア 補助参加人には、本件売却土地を豊橋市に返還すべき義務があるところ、本件売却土地は、第三者に売却され、その所有権移転登記がされたことにより、その返還義務が履行不能となったのであるから、補助参加人は、控訴人に対し、その売却代金相当額63億円及び同移転登記により返還義務が履行不能となった日である平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。
イ 仮に、工場等が建設された部分を返還しなくてよいとしても、以下のとおり、返還すべき未使用土地があった。
すなわち、本件各土地の西側部分の工場敷地部分のうちの工場立地部分以外の土地上にある野球グランドや陸上競技用トラックなどは、本件契約の本旨に従って使用されていたとは評価できない。
また、本件各土地の北西部分の土地及び北東部分の土地は、当初から一貫して使用されていない。
これらの部分の土地の面積は、9万4672.41m2となる。
仮に、上記部分の土地からグランド部分を除外するとしても、4万7300.86m2となる。
したがって、これらの土地に相当する金額については返還されてしかるべきである。
ウ 控訴人の主張について
控訴人は、第2工場の敷地以外の部分は、その建設以前に、植林地、野球場、陸上トラックなどに使用されており、未使用土地は第2工場敷地部分のみであったと主張する。
しかし、これらの使用をもって本件契約の目的に従った使用をしたと評価できるものではない。
エ 補助参加人の主張について
(ア)補助参加人は、本件各土地のうち、居住地区となっていた東側部分は返還対象でないし、返還対象だとしても居住地として使用されていると主張するとともに、北西側部分の土地についても、第2工場のほか、廃棄物の仮置き想定場所、貯水池、休憩室、運動場、ゴルフ練習場としても使用されており、使用済みの土地であると主張する。
しかし、東側部分の居住建物北側の空き地は「手つかずの空き地」と評価する以外ない。
また、「花壇づくり」や「キャンプ場整備」、「運動場」、「ゴルフ練習場」などは、補助参加人の従業員有志の要望で、補助参加人が一時的に使用許可したに過ぎず、補助参加人による本件契約の目的に適う使用とは評価できない。
また、補助参加人は、緑地部分について工場立地法により法令上使用されたと評価できる旨主張する。
しかし、緑地部分でも、当初から一貫して未使用土地であった部分については、単なる未使用であり、工場立地法に基づく緑地とはいえない。
また、工場立地法による緑地化の規制は、既存工場については適用除外とされているため、昭和43年に建てられた第2工場までは、適用除外となっており、その後に増設されたとしても、それにより必要とされる緑地部分はごく僅かにすぎず、緑地部分について法令上使用されたと評価することはできない。
(イ)信義誠実の原則違反、権利の濫用の主張に対して
補助参加人、豊橋市が双方の利益になると確信したがゆえに結ばれた本件契約であるにもかかわらず、自らの都合で終了させる以上、清算方法の合意内容も誠実に守るべきことが信義に適った契約当事者の対応といえる。
また、補助参加人の雇用がもたらす利益は、補助参加人自身が享受したのであって、豊橋市が享受した利益は間接的なものにとどまる。
さらに、本件売却土地の価格上昇は、補助参加人がもたらしたということはできない。
本件売却土地の売却価格は市場価格より低額であり、被控訴人らの請求は、望外な利益の請求ではない。
したがって、補助参加人の主張は当たらない。
(控訴人の主張)
仮に、補助参加人に、本件売却土地のうち、未使用土地について返還すべき義務があるとしても、本件売却土地のうち、第2工場の敷地以外の部分は、その建設以前に、植林地、野球場、陸上トラックなどに使用されており、未使用土地は第2工場敷地部分のみであった。
したがって、昭和43年の第2工場建設により、本件売却土地に未使用土地はなくなっており、返還すべき土地はなくなった。
(補助参加人の主張)
ア 仮に、補助参加人に、本件売却土地のうち、未使用土地について返還すべき義務があり、しかも、未使用土地に緑地部分を含むとしても、本件各土地の北東部分の緑地については、本件各土地の中央付近に、北端から南端にかけて塀が設置され、その東側部分に社宅等が建設されて居住地区として使用されたことにより、未使用土地ではなくなった。
仮に、そのように評価できないとしても、北東部分の緑地は、補助参加人の従業員の福利厚生に資する花壇づくりが行われたり、キャンプ場が整備されたりするなど、レクリエーションエリアとして使用されたと評価すべきである。
また、北西部分の緑地についても、第2工場以外に、廃棄物の仮置き想定場所、貯水池、休憩室、運動場、ゴルフ練習場として使用されており、未使用とは認められないし、少なくとも昭和48年に改正された工場立地法4条1項に基づき定められた準則により、緑地以外に使用することが法令上認められなくなったことから、法令上使用されたと評価できる。
したがって、本件売却土地に未使用土地は存在しなかった。
また、昭和41年覚書が作成された当時、当初1500坪相当の未使用土地の返還の代わりに本来補助参加人が負担する必要がない鉄道引込線用地の取得費用の負担を求められていたことを考慮すると、少なくとも1500坪相当の未使用土地については、実際に鉄道引込線用地の取得費用を補助参加人が負担している以上、未使用と評価される余地はない。
イ また、仮に、補助参加人に本件売却土地を返還する義務が生じていたとしても、豊橋市に売却代金相当額の損害賠償請求が認められることは行き過ぎである。
本件各土地が豊橋市の所有ではなかったこと、昭和41年覚書が作成された当時、豊橋市は、1500万円もの多額の費用を要する鉄道引込線用地の取得費用を補助参加人が負担するのであれば、未使用土地の返還は不要であるという認識を有しその旨補助参加人に申し出ていたこと、本件各土地の価格上昇における補助参加人の貢献、豊橋市の負担、豊橋市の利益、補助参加人の負担からすると、本件契約締結から60年以上経過した段階で、補助参加人が本件売却土地を売却したことを奇貨として豊橋市が望外の利益を得る理由なく、豊橋市の補助参加人に対する請求が認められることは明らかに公平性を欠くから、豊橋市からの請求は、信義誠実の原則に反し、権利の濫用である。
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第3 当裁判所の判断
1認定事実
原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2に記載した前提事実(補正後のもの)のほか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)補助参加人が本件各土地を利用するに至った背景
本件各土地を含む豊橋市内の高師原、天白原の旧軍用地は、もともと小松や低木しか生えない荒地であり、農業に適した土地ではなかったが、愛知県は、開墾により農地創出を促す目的で、昭和20年以降上記旧軍用地に入植する就農希望者を募集していた。
その後、豊橋市は、昭和25年当時、失業問題の解決や商工業の活性化のため、工業化政策を本格化すべく、本件各土地を含む広大な旧軍用地を利用した工場誘致政策を進めていた。
この政策の一環で、豊橋市は、当時、工場の新設を計画していた補助参加人への働き掛けを行い、本件各土地に補助参加人の事業所を誘致することに成功した。(甲8、22、乙1~3、弁論の全趣旨)
(2)本件覚書及び本件契約の締結等
ア 昭和25年12月5日、本件覚書が取り交わされたところ、この時点では、補助参加人の事業所の敷地となる土地の範囲が確定していたわけではなかった。
また、補助参加人としては、この頃、本件各土地のうち6万坪程度を使用する想定をしており、結果として使用しない部分が生じてくることを想定していた。
(甲2、3、丙4の1、弁論の全趣旨)
イ 本件覚書においては、13条に、「甲(注・補助参加人を指す。)は将来第3条(1)の(イ)の敷地(注・本件各土地を指す。)の内で使用する計画を放棄した部分は之を乙(注・豊橋市を指す。)に返還する。」との定めがあるほか、以下の趣旨が合意された。
なお、本件覚書13条は、本件各土地の使用計画が完全に定まっていなかったために、補助参加人が本件各土地に新設する事業所が操業を開始した後になっても使用する見込みがない部分があれば豊橋市に返還することを念頭に、設けられたものであった。
(甲2、8)
(ア)豊橋市は、補助参加人による工場建設が早期に完成するように、物心両面にわたって全面的に協力し、諸便益を提供する。(2条)
(イ)当時政府が所有していた本件各土地について、払下げがされるまでの間は、政府から豊橋市が借り受けてこれを補助参加人に無償貸与し、払下げを受けることが可能となれば、豊橋市が自らの費用負担で払下げを受けた上で、その所有権を補助参加人に無償移転させる。(3条(一)(ハ))
(ウ)工場用鉄道引込線は補助参加人の専用とし、当該鉄道引込線の施設費用のうち用地買収及びこれに伴う費用は豊橋市の負担とする。(3条(四)(ハ)(ホ))
(エ)補助参加人に課されるべき市税のうち本件各土地に新設される工場の操業開始後6年間分の固定資産税を実質的に免除するほか、補助参加人に課されるべき事業税その他の県税に関して補助参加人の希望に沿うように愛知県とあっせん交渉する。(5条、6条)
(オ)本件覚書に規定のない事項あるいは疑義を生じた事項については、各当事者が本件覚書の趣旨に従って誠意をもって協議し、実行する。(14条)
ウ 本件覚書における上記各定めの趣旨は、本件契約にもそのまま引き継がれた。
ただし、本件契約3条(一)(イ)では、「甲(注・補助参加人を指す。)の建設用地敷地は豊橋市曙町の開拓に供せられた農地の一部、その他とし同敷地面積は8万1638坪8合3勺とする。」旨面積が明記され、同条(一)(ハ)においては、補助参加人が政府から直接本件各土地の払下げを受ける場合には、その費用は豊橋市が負担する旨が追加で合意された。
なお、豊橋事業所の工場建設自体は、本件覚書が取り交わされた後、本件契約の締結を待たずに開始された。
(甲3、15、22、25、弁論の全趣旨)
(3)本件契約の締結当初における本件各土地の利用状況等
ア 補助参加人による豊橋事業所第1工場の建設工事は、昭和26年12月に竣工した。
そして、当初、工場の従業員として約2000人が雇用された。(甲7、8、乙1、3)
イ 昭和29年3月頃、本件各土地の所有権は国から補助参加人に直接移転し、その後、所有権に係る登記名義も国から補助参加人に直接移転したところ、その払下げに必要な手続や費用合計約1100万円は豊橋市において負担したほか、本件各土地に入植していた者に対する補償関係費用等約1500万円も、豊橋市において負担した(甲8、10の6~10、14、16~18、23、24、26、弁論の全趣旨)。
ウ 本件契約に基づき、昭和31年までは、豊橋事業所に係る固定資産税は免除されていたが、昭和32年以降は、補助参加人が固定資産税を負担した。
豊橋事業所の操業開始当時において、固定資産税額は、年額2500万円程度と見込まれていたが、昭和32年から昭和41年までに実際に支払われた固定資産税の合計額は、9800万円程度であった。
なお、豊橋事業所に係る固定資産税(平成18年から平成27年までの10年間)、法人市民税(平成16年から平成27年までの12年間)及び事業所税(平成21年から27年までの7年間)の各年の各税金の平均の合計額は、年額で1億6000万円弱であった。
(甲8、乙1、5の1)
(4)本件協議書の作成等
ア 本件協議書が取り交わされた昭和41年頃までの間、本件各土地の中になお空き地があることや、鉄道引込線に関して補助参加人に過大な便宜供与がされていること(鉄道引込線用地の借地料を豊橋市が負担していること等)が豊橋市議会等で問題視されていた(甲8、乙5の1~3)。
イ そのため、豊橋市の担当者らは、補助参加人に対し、昭和40年8月頃には、上記の問題を回避すべく、鉄道引込線用地の国からの払下げの費用約1500万円を補助参加人が負担するか、本件各土地の中で使用していない土地の一部を豊橋市に返還するかしてもらいたいと要望をするようになった(丙8の1・2)。
ウ これに対し、補助参加人は、本件契約では、当該鉄道引込線の施設費用のうち用地買収及びこれに伴う費用は豊橋市の負担とするとされている(3条(四)(ハ))ことから、豊橋市の担当者らの要望を受け入れるのであれば、代わりに、本件各土地の完全な所有権を取得し、将来にわたって、本件各土地のうちで使用していない土地を豊橋市に返還する債務を負わないよう求めることなどを検討し、豊橋市の担当者らに提案した(丙8の5・6(枝番号を含む。))。
エ しかし、補助参加人が検討している内容については、本件契約の内容の変更を伴うものであり市議会の議決を要するものであるところ、豊橋市は、本件契約の内容に変更を加えることなく、本件契約の文言の解釈について双方で明確にする形にして、市議会の承認を得ることなく合意できる内容にとどめたいとしたため、補助参加人の提案内容については合意に至らなかった(丙8の7・8)。
オ そして、最終的には、本件協議書が取り交わされたのと同日である昭和41年2月21日に、豊橋市と補助参加人との間で昭和41年覚書が取り交わされ、本件契約3条(四)にかかわらず、鉄道引込線用地のうち東海財務局所管の国有地については、買収及びそれに伴う一切の費用を補助参加人の負担とすること、その買収事務が同年4月1日までに完了しない場合、豊橋市が支払っている当該国有地の借地料は以後補助参加人の負担とすることが取り決められた(乙4、丙8の9・10)。
カ 本件協議書が取り交わされた後、豊橋市と補助参加人との間で、本件契約12条について具体的な協議がされた事実はうかがえない(甲8、弁論の全趣旨)。
キ 昭和43年、昭和41年当時に問題とされた空き地部分を一部利用する形で、豊橋事業所の第2工場が完成した(甲7、丙6、弁論の全趣旨)。
ク 上記第2工場完成後の本件各土地の利用状況は、次のとおりであった。
すなわち、本件売却土地のうち、西側部分にはその南側部分に第1工場が、北側部分に第2工場が建設されており、東側部分には社宅が建設されていて、工場敷地部分と社宅敷地部分は塀で区画されていた。
社宅があった東側部分は、社宅の北側が緑地となっており、花壇やキャンプ場が整備されていた。
また、第1工場及び第2工場があった西側部分は、第2工場の西側、北側、東側部分が緑地となっており、廃棄物の仮置き想定場所、貯水池、休憩室、運動場、ゴルフ練習場などが設けられていた。
上記東側部分の緑地及び西側部分の緑地の合計面積は、概算で約9万4672.41m2程度(計算式;270,692.74m2×9,663/(9,663+17,966)≒94,672.41m2(甲52参照))である。
もっとも、この算出の根拠とした甲第52号証を丙第15号証の1・2からうかがえる補助参加人の本件売却土地の利用状況と比較すると、上記面積より幾分限定されるものと解される。
また、ここから廃棄物の仮置き想定場所、貯水池、休憩室、運動場、ゴルフ練習場などがあった部分を除くと概算で4万7300.86mm程度(計算式;270,692.74m2×4,823/(4,823+22,778)≒47,300.86m2(甲53参照))となる。
(甲49~53、丙12~14、15の1・2、16~19)
(5)平成18年における豊橋市議会での質疑
平成18年9月、豊橋市議会において、本件各土地のうち広範囲が空き地となっている点などが問題とされたところ、当時豊橋市長であった早川勝は、平成14年に補助参加人が分社化された際に弁護士と相談して検討したが、分社化されたとしても会社としての同一性が失われるわけではないから、本件契約への違反は生じないし、法的に返還請求をしていくことは難しいという検討結果となった旨、しかし、全く違う企業が誘致され空き地を使用するようになれば、本件契約に基づき返還請求をする可能性がある旨を答弁した(甲11)。
(6)本件売却土地の売却の前後における事実経過
ア 補助参加人は、平成26年10月9日、豊橋市に対し、同年に定めた「中期経営計画」の中で、本件売却土地に設けている豊橋事業所の操業を停止する方向性を固めた旨を明らかにし、その際、次の点を申し入れた。
① 平成27年3月末までに、豊橋事業所全体を閉鎖すること。
② 閉鎖に前後して、本件売却土地は、再開発を前提として第三者へ売却したいこと。
③ 今後、売却及び開発を行うに当たり、豊橋市に相談したいこと。
なお、補助参加人は、豊橋市の担当者に対し、豊橋事業所閉鎖の準備や買手の選定等の関係で、社内決定までは上記の事項の公表を控えてほしい旨を申し入れた。
(甲5、8)
イ 補助参加人の代表取締役である注連浩行(以下「注連」という。)は、平成26年10月29日、本件売却土地の売却方針につき、豊橋市長に対する説明を行った(甲7、14)。
ウ 豊橋市長は、平成26年11月5日、ユニチカ敷地対策会議を設置した。
同会議は、計7回開催され、本件売却土地の開発が周辺区域の街づくり等に及ぼす影響等について検討がされた(甲7、8、弁論の全趣旨)。
エ 補助参加人は、平成27年3月12日、豊橋市に対し、本件売却土地で営んでいる豊橋事業所に関する事業所等廃止申告書を提出した(甲7)。
オ 注連は、平成27年9月16日、豊橋市長に対し、本件売却土地の売却や引渡しの予定等を報告した(甲7、弁論の全趣旨)。
カ 補助参加人は、平成27年9月28日、遊休資産である本件売却土地を積水ハウスに売却し、約10億円の特別利益を計上する旨を公表した(甲.7、9)。
キ 豊橋市長は、平成28年6月頃、本件に関する記者会見の場で、「使用計画した土地は全部使った。事業の放棄と使用計画の放棄をごちゃ混ぜにしないでください。」と述べた(甲6、14)。
(7)総社市の場合
補助参加人は、岡山県都窪郡常盤村・清音村(現在はいずれも総社市)にも昭和26年に工場(以下「常盤工場」という。)を新設した。
常盤工場は、敷地面積が約20万7532m2であり、当時の常盤村、清音村及び岡山県が誘致した。
誘致の際には、岡山県、常盤村及び清音村と補助参加人との間で別件覚書が交わされ、そこでは、敷地は無償で提供すること、鉄道引込線、電気設備、道路・排水路は、常盤村がその負担で整備することなどのほか、工場が廃止され工場敷地が不要になった場合は無償でこれを返還することが合意された。
補助参加人は、平成11年3月に常盤工場の用地の一部を子会社であるユニチカテキスタイル株式会社に譲渡することを契機に、工場用地のうち一部の未活用地及び鉄道引込線用地合計約3万1683m2を総社市に無償で寄付することとし、総社市との間で、別件覚書については履行済みであり既に終了していることなどを確認する旨の確認書を交わした。
平成15年6月に開かれた総社市議会の定例会において、議員が上記確認書の趣旨について市長に対して質問をした際、常盤工場の誘致の経緯に触れ、「常盤村と清音村が地権者から土地を買って、無償で補助参加人に提供した。」旨述べた。
(甲20、21、丙3、4、7(いずれも枝番号を含む。)
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2 争点(1)(補助参加人は、本件売却土地が売却された時点において、豊橋市に対し、本件売却土地の全部又は一部を本件契約12条の「敷地の内で、使用する計画を放棄した部分」として返還すべき義務を負っていたか。)について
(1)前記前提事実(引用に係る原判決の「事実及び理由」第2の2(補正後)、以下、単に「前提事実」という。)及び上記1の認定事実によれば、本件契約12条は、「甲(注・補助参加人を指す。)は将来第3条(一)の(イ)の敷地の内で使用する計画を放棄した部分はこれを乙(注・豊橋市を指す。)に返還する。」と定められており、「第3条(一)の(イ)の敷地」とは、同条項の文言によれば、その敷地面積は、「8万1638坪8合3勺」とされていることからすると、抽象的には、本件各土地全体が返還の対象となり得るものと解される。
しかし、具体的に返還の対象となり得るのは、そのうちの「使用する計画を放棄した部分」であるから、以下、「使用する計画を放棄」することの意味内容について検討することとする。
前記1の認定事実によれば、豊橋市が本件契約を締結した目的は、失業問題の解決や商工業の活性化のために工場を誘致することであったものと解される。
そして、この目的が達成されたといえるためには、多数の市民が雇用され、それらの被雇用者とその家族が近隣の商業施設を利用して商品に対する需要が生まれることが必要であるから、補助参加人が本件各土地に単に工場等を建設するだけではなく、多くの従業員を雇用して操業を開始すること、すなわち、使用する計画を遂行することが必要である。
そうすると、「使用する計画を放棄」するとは、当該土地部分について工場等を建設して操業を開始する前に使用しない旨を表明することをいうものと解するのが相当である。
そして、前記1の認定事実によれば、補助参加人は豊橋事業所を閉鎖することに伴って、本件売却土地の全部を使用しなくなり、かつ、平成27年3月12日に豊橋市に事業所等廃止申告書を提出したことにより、遅くとも同日時点で、豊橋市に対し、本件売却土地のうち未使用土地を使用する計画を放棄する旨の意思表示をしたものと認めるのが相当である。
(2)被控訴人らは、本件契約の目的は、補助参加人に工場を建設させることではなく、補助参加人が本件各土地上で工場を操業することによって、契約両当事者が互いに継続的に利益を獲得することであり、本件契約12条が契約条項の末尾に清算条項的に設けられていることからしても、同条の「計画」とは、補助参加人による本件各土地上での工場の操業をいうのであり、本件各土地上での事業廃止による本件各土地からの撤退は、本件各土地を「使用する計画の放棄」にほかならない旨主張する。
確かに、工場の操業を開始しても一定期間以上操業を継続しなければ、上記のような工場誘致の目的は実質的には達成されたことにはならないが、そのような場合は、本件契約12条の趣旨からみて、「使用する計画の放棄」に該当すると解することが可能である。
そして、前記1の認定事実によれば、本件覚書が取り交わされた当時、補助参加人は本件各土地合計約8万1600坪のうち6万坪程度を使用することを想定しており、本件覚書13条は、補助参加人が本件各土地に新設する事業所が操業を開始した後になってもその余の部分について使用する見込みがなくなればこれを豊橋市に返還することを念頭に設けられたこと、及び、本件覚書の各定めの趣旨は本件契約にそのまま引き継がれたことが認められ、これらの事実によれば、本件契約の締結時において、その当事者である豊橋市及び補助参加人の意思として、本件契約12条が補助参加人において一定期間操業を継続した後に本件各土地での操業を廃止した場合に適用されることが観念されていたものとは認められない。
また、本件契約締結当時の地方自治体による工場誘致の実情や土地取引の実情等に照らして、一定期間操業を継続した後に本件各土地での操業を廃止した場合には、補助参加人は当然に当該土地を豊橋市に返還すべきものであると社会通念上考えられていたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、本件契約12条が適用された場合、補助参加人は、既に取得している本件各土地の全部又は一部の所有権を失うことになり、その効果は、たとえ、本件各土地の一部分のみの返還であったとしても、本件契約の一方当事者である補助参加人に極めて大きい影響を与えるものといわざるを得ない。
これらのことに、前記のとおり、「使用する計画を放棄」するとは、「当該土地部分について工場等を建設して操業を開始する前に使用しない旨を表明」することをいうものと解することも可能であることを併せ考えると、文言上一義的に、「一定期間操業を継続した後に本件各土地での操業を廃止」することと解することができない本件契約12条の解釈として、補助参加人に極めて大きい影響を与えるような後者の解釈はとりえないというべきである。
したがって、被控訴人らの上記主張は採用できない。
(3)控訴人及び補助参加人は、本件契約12条により補助参加人が豊橋市に返還すべき対象土地は、約2万坪の本件契約当時未計画地に限定される旨主張する。
確かに、前記前提事実及び1の認定事実並びに証拠(丙8(枝番号を含む。))によれば、豊橋市と補助参加人は、昭和41年に本件協議書を作成する過程で、本件契約12条により返還する対象となる土地の範囲は本件各土地のうちの使用していない土地であることを前提として交渉していたことが認められる。
しかし、上記のとおり、豊橋市が本件契約を締結した目的は、失業問題の解決や商工業の活性化のために工場を誘致することであったものと解され、この目的が達成されたといえるためには、補助参加人が本件各土地に工場等を建設し、操業を開始することが必要である。
そして、前記前提事実によれば、本件契約が締結された当時、補助参加人の豊橋事業所は未だ操業を開始していなかったことが認められる。
したがって、本件契約12条は本件各土地全体を対象としていたものと解するのが相当である。
そして、このように解しても、本件協議書が作成された時点では、豊橋事業所の第1工場が稼働していたほか、社宅等の敷地等として使用されていたことからすれば、その当時豊橋市と補助参加人が本件契約12条の対象が本件各土地全部のうち未使用土地であると考えていたことと、何ら矛盾しない。
よって、控訴人及び補助参加人の上記主張は採用しない。
また、控訴人は、「敷地の内」、「部分」という表現ぶりから本件各土地の一部に係る使用計画の放棄のみについての定めである旨主張するが、この表現をもって全部を放棄した場合を除外すべきものと解することはできない。
(4)控訴人及び補助参加人は、本件協議書により、補助参加人から使用計画を放棄する旨の意思表示をしなければ返還義務は生じない趣旨が明確にされたことから、補助参加人は本件契約12条に基づく返還義務を負わない旨主張する。
しかし、前記(1)の認定判断のとおり、補助参加人は、遅くとも平成27年3月12日における事業所等廃止申告書の提出の時点で、豊橋市に対し、本件売却土地のうち未使用土地を使用する計画を放棄する旨の意思表示をしたものと認めるのが相当であるから、控訴人及び補助参加人の上記主張は採用しない。
(5)また、補助参加人は、合理的期間が経過した後は、本件契約12条は失効
するものと解すべきであると主張する。
しかし、前記前提事実によれば、本件協議書では、本件契約12条に規定する「将来」とは、ある一定の期限を有するものではなく、何等期限の制約を受けるものでないことが確認されており、この定めにかかわらず、合理的期間が経過した後は本件契約12条は失効するものと解すべき根拠は見当たらないから、補助参加人の上記主張は採用できない。
(6)さらに、補助参加人は、本件契約12条は、買戻特約に類似した効果を持つから、民法580条の法意に照らし、本件協議書が取り交わされた昭和41年から10年が経過した後の時点では、本件契約12条の権利行使をすることは許されない旨主張する。
しかし、有償で所有権を取得した者が買戻権を行使され得るという不安定な地位に長期間置かれることを防ぎ取得者を保護すべきであるという要請があるとしても、本件契約のように無償で土地を供与された者がそのうちの使用しなかった部分を返還するという定めがある場合に、同様の保護を与えるべきであるという要請があるとは考えられない。
よって、本件契約12条に民法580条の法意が及ぶものとは解されず、補助参加人の上記主張も採用できない。
(7)以上によれば、補助参加人は、豊橋市に対して遅くとも平成27年3月12日までには、本件売却土地のうち未使用土地を使用する計画を放棄する旨の意思表示をしたものと認められるから、その時点において、豊橋市に対し、本件売却土地のうち、工場等を建設して操業を開始する計画を放棄したと評価できる土地について、本件契約12条に基づく返還義務を負っていたというべきである。
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3争点(2)(補助参加人が上記2の返還義務を負っていた場合、返還すべき土地の範囲及びその損害賠償額はいくらか。)について
(1)前記1の認定事実によれば、平成27年3月12日時点において、本件売却土地のうち社宅がある東側部分は、社宅の北側が緑地となっており、花壇やキャンプ場が整備されていたこと、第1工場及び第2工場がある西側部分は、第2工場の西側、北側、東側部分が緑地となっており、その一部に廃棄物の仮置き想定場所、貯水池、休憩室、運動場、ゴルフ練習場などが設けられていたこと、及び、東側部分と西側部分は塀により区画されていたことが認められる。
上記事実によって検討するに、まず、第1工場及び第2工場の敷地部分は、補助参加人の事業の用に直接供するものであり、また、社宅の敷地部分も、補助参加人の事業の用に間接的に必要とされるものであり、さらに、西側部分の第2工場西側、北側及び東側の緑地のうち、廃棄物仮置き想定場所、貯水池及び休憩室の部分は、補助参加人の事業の用に直接供するものと評価することができ、既にそれぞれの用途に使用されていると評価できるから、いずれも「使用する計画を放棄した部分」には当たらないと解するのが相当である。
しかし、西側部分の第2工場西側、北側及び東側の緑地のうち、上記使用されていると評価できる部分を除く部分は、運動場及びゴルフ練習場の部分を含めて、補助参加人の事業に直接関係しないレクリエーション施設であって、補助参加人が事業として使用するまでの間、事実上、利用を許されてきたものに過ぎないというべきであり、東側部分の北側緑地部分は、塀が設置されたことをもって直ちに居住地区の一部として使用されたとは評価し難いし、花壇やキャンプ場は、補助参加人の事業に直接関係しないレクリエーション施設であって、補助参加人が事業として使用するまでの間、事実上、利用を許されてきたものに過ぎないというべきであるから、これらの部分は、いずれも未だ使用計画が立案実行されていない土地と評価するのが相当であり、「使用する計画を放棄した部分」に該当する。
なお、補助参加人は、昭和48年に改正された工場立地法を根拠に緑地部分が法令上使用されたと評価できる旨主張するが、昭和43年に建てられた第2工場までは、同法の適用から除外されるものと解されるから、緑地部分が法令上使用されたと評価することはできない。
以上によれば、本件各土地のうち、「使用する計画を放棄した部分」に該当するのは、本件売却土地の東側部分の北側緑地部分、及び、西側部分の北側緑地部分のうち、廃棄物の仮置き想定場所、貯水池及び休憩室部分を除いた部分ということになる。
そして、前記1の認定事実(4)クによれば、本件売却土地の東側部分の北側緑地部分及び西側部分の北側緑地部分の面積は、概算で約9万4672.41m2程度であるところ、この算出の根拠とした甲第52号証と丙第15号証の1・2からうかがえる補助参加人の本件売却土地の利用状況とを比較すると、上記面積より「使用する計画を放棄した部分」に該当する部分の面積の方が幾分小さくなるものと認められ、これに証拠(甲52.53、丙15の1・2)からうかがえる廃棄物の仮置き想定場所、貯水池及び休憩室部分の面積を差し引くと、「使用する計画を放棄した部分」に該当する部分の面積は、少なくとも、9万m2を下らないと認められる。
控訴人及び補助参加人は、昭和43年に豊橋事業所第2工場が建設されたことにより、本件売却土地には未使用土地がなくなったから、返還すべき土地はない旨主張するが、上記認定判断に照らして、採用できない。
また、補助参加人は、昭和41年覚書が作成された当時、当初1500坪相当の未使用土地の返還の代わりに本来補助参加人が負担する必要がない鉄道引込線用地の取得費用の負担を求められていたことを考慮すると、少なくとも1500坪相当の未使用土地については、実際に鉄道引込線用地の取得費用を補助参加人が負担している以上、未使用と評価される余地はない旨主張する。
しかし、前記認定事実によれば、昭和41年には、最終的には本件協議書及び昭和41年覚書が交わされることとなり、それらでは、1500坪相当の未使用土地について返還請求権を放棄する旨の条項は定められなかったものと認められるから、補助参加人の上記主張は採用できない。
(2)前記1の認定事実のとおり、補助参加人が平成27年10月1日頃、本件売却土地を第三者に売却し、同月1日、その旨所有権移転登記手続が経由されたことからすると、これにより本件売却土地のうち「使用する計画を放棄した部分」の返還義務の履行は社会通念上不能となったものと認められ、補助参加人の同土地の上記売却行為は、豊橋市の上記土地部分に対する返還請求権を侵害するものとして、不法行為に該当する。
よって、補助参加人は、豊橋市に対して、不法行為に基づく上記土地部分相当額の金銭賠償義務を負うことになる。
その具体的な金額は、本件売却土地(敷地面積27万0692.74m2)の売却価格63億円から面積割合で計算すると、20億9462万5810円となる(計算式;6,300,000,000円×90,000/27,0692.74≒2,094,625,810円)。
(3)補助参加人は、豊橋市からの本件売却土地代金相当額についての損害賠償請求は信義誠実の原則に反し、権利の濫用である旨主張する。
しかし、前記前提事実及び前記認定事実によれば、もともと本件各土地は、豊橋市が国から払下げを受けた土地であり、豊橋市は、失業問題の解決や商工業の活性化のため、工業化政策を本格化すべく、同土地を利用した工場誘致政策を進めたのであり、その結果、補助参加人の事業所を誘致することに成功したという経緯があったこと、その際、補助参加人自身が、本件覚書13条及び本件契約12条により「将来本件各土地のうちで使用する計画を放棄した部分は豊橋市に返還する。」旨合意して上記誘致に応じたこと、そして、昭和41年覚書が作成された際、補助参加人は1500万円の鉄道引込線用地取得費用を負担しながらも、本件協議書において本件契約12条の趣旨を改めて確認したことが認められ、これらの事実からすれば、補助参加人が本件各土地の一部について、補助参加人が当該土地を含む本件売却土地の売却の意思を明示し、当該土地を使用する計画を放棄した以上、豊橋市が当該土地の返還やこれに代わる損害の賠償を求めることは、何ら信義誠実の原則に反するとか権利濫用に当たるとはいえない。
したがって、この点に関する補助参加人の主張は採用しない。
4 以上によれば、補助参加人は、豊橋市に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき、少なくとも9万m2の土地の売却代金相当額20億9462万5810円及びこれに対する不法行為の日である同土地の所有権移転登記手続が経由された平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負っているというべきである。
したがって、被控訴人らの請求は上記限度で理由がある。
なお、補助参加人の債務不履行責任はこれを上回らない。
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第4 結論
よって、被控訴人らの請求は、控訴人が、補助参加人に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権により、少なくとも9万m2の土地の売却代金相当額20億9462万5810円及びこれに対する不法行為の日である同土地の所有権移転登記手続が経由された平成27年10月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することを求める限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、これと異なる原判決を変更し、主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第1部
裁判官 久保 孝二
裁判官 升川 智道
裁判長裁判官倉田慎也は、差し支えのため署名押印できない。
裁判官 久保 孝二
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