豊橋市議の長坂です。
基調講演が「感動話」とは想定外でした。

さて、新アリーナ構想を前提とした「街づくりは人作り~今を生きる私たちが善き先人になろう~」という市民公開シンポジウムに行ってきました。
190211_01
パネルディスカッションにて、スポーツ庁の忰田康征さんがおっしゃっていた、スタジアム・アリーナの「プロフィットセンター」化。日本語では「稼ぐ施設」「稼げる施設」などと言われています。

しかし、その定義が独特であることは、あまり知られていません。
なお、この場合のプロフィットセンターとは、施設単体で経費を上回る収入を得ることを必ずしも意味するわけではない。過大な投資は厳に抑制すべきであるが、地域の実情に応じて、必要な機能や地域のシンボルとなる建築に対する適切な投資を行い、スタジアム・アリーナを最大限活用することを通じたにぎわいの創出や持続可能なまちづくり等の実現とそれに伴う税収の増加等も含めて、投資以上の効果を地域にもたらすという意味を含んでいる。

 - スタジアム・アリーナ改革指針(全体版) p4 より
http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/008_index/toushin/1379557.htm
それってこのご時世当たり前ですよね?

持続可能なまちづくり等」にどこまでの意味を含ませているのかわかりませんが、特に都市計画や産業支援において「投資以上の効果」を見込める施策をすることは、このご時世当たり前です。



最近では「教育経済学」という分野も出てきています。
有名なのはノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授による「ペリー就学前計画」。
「ペリー計画」の投資収益率は、15~17%という非常に高いものになる。

 - 内閣官房 教育再生実行会議 大竹文雄 大阪大学社会経済研究所教授 提出資料 p7より
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/bunka/dai3/dai5/siryou.html
就学前教育(6歳未満の教育)の重要性を示しています。

また、待機児童についてはこんな試算も。
政府がGDP比で0・1%分(0・5兆円)、保育サービスに投資をすると、経済成長率が0・28%上がるので、単純に計算すると2・8倍というかなり大きな投資効果があります。そのうち、数年以内に得られる投資効果だけでみると、2・3倍という数字になります。この数字は誤差が大きいので単純に比較はできませんが、公共事業の場合の投資効果は1・1倍、法人税減税の投資効果は0・5倍ですので、保育サービスの方が投資効果が大きいと見込まれます。なので政府は保育サービスへの投資をもっと増やした方がいいのです。ただ、子どもの数は減っていくので、ハコモノを建てるばかりではだめです。空いた建物を、上手に活用していく必要があるでしょう。
http://www.tokyo-np.co.jp/senkyo/kokusei201607/ren/CK2016061902100031.html
このように教育や保育の分野にも、投資対効果の考え方が取り入れられています。



そもそも「プロフィットセンター」とその対義語である「コストセンター」は経営用語で、本来は次のような意味です。
プロフィット・センターとは、収益と費用(コスト)が集計される部門

プロフィット・センターでは、集計された収益から費用を差し引いた利益を極大化することが目標となる。収入と費用の差額を大きくすること、つまり収入はできるだけ多く費用はできるだけ少なくすることが目標となる。

例えば、工場をプロフィット・センターとすると、コスト・センターとした場合とは逆に、利益が得られるものであれば、生産工程を改善するなどして、特注品でも積極的に受注していこうというインセンティブが働くことになる。

従って、標準品の比重が高い会社ではコスト・センターでも問題はないが、特注品の比重が高い会社では、プロフィット・センターの方が望ましいということになる。
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11978.html 
コスト・センターとは、コスト(費用)だけが集計され、収益は集計されない部門

コスト・センターでは収益が集計されないため、会社全体の損益の面からは同じ効果をできるだけ少ないコストで上げていくことが目標となる。 例えば、工場をコスト・センターとしてしまうとコストダウンが至上命令になり、生産工程を単純化することが目標となる。その結果、柔軟な生産体制が要求されるような複雑な注文を受け付けなくなる傾向が出てくる。
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11787.html 
つまり、
  • プロフィットセンター⇒ 費用と収益の両方を見る
  • コストセンター⇒ 費用だけを見る
という取り扱いの違いであり、引用のように製造部門である同じ「工場」であっても、その性質や経営方針によって、その扱いが変わります。

本来の意味と、「プロフィットセンター」の国の独自定義が、大きく違うことがわかると思います。



この本来の意味で言うならば、地方自治体(行政)の場合、税金や保険料以外の収入があり、その収入が事業の大きな柱である部門は「プロフィットセンター」と言えるかもしれません(赤字でも)。

例えば、上下水道事業や病院事業などです。

これらの事業は、公営企業会計や特別会計など、自治体の一般会計とは分けられており、その意味でも本来の「プロフィットセンター」の使い方と、合っている気がします。具体的には、豊橋市では次のような事業があります。

公営企業会計
  • 水道事業
  • 下水道事業
  • 病院事業
特別会計
  • 競輪事業
  • 総合動植物園事業
  • 公共駐車場事業
  • 地域下水道事業
(※特別会計には他に、国民健康保険事業・母子父子寡婦福祉資金貸付事業・後期高齢者医療事業・介護保険事業、の4つがありますが、収入の性質から「プロフィットセンター」というには、少し違う気がして外しました)



ぼくは、スタジアムやアリーナを「稼ぐ施設」にしていこうという気概は好意的に見ています。

一方、本当に「稼げる」事業であれば、行政ではなく民間がやるべきだとも考えています。
実際は「稼ぐ施設」を目指したいけれども、民間だけでやるほど「稼げる施設」ではない、ということでしょう。

実際に、今日の話でも指定管理などで運営に民間の力を借りて、単年では黒字化できたような事例の紹介はありました。しかし、施設建設費などは税金で賄われているため、その収支外と思われます。

ぼくの知り限りでは、プロ野球を除いて、JリーグもBリーグもホームスタジアム/アリーナ経営が、建設費用を含んで黒字になっている事例はないと把握しています。

実際に今日のシンポジウムでも、そのような事例の紹介はありませんでした(プロ野球の事例のみ)。

それは、各プロスポーツリーグの人気の違いもさることながら、年間の試合数と1回の試合に入る観客数(施設規模)の違いも関係しています。
各地の新アリーナは経営できるか?プロ野球・Jリーグ・Bリーグ経営比較(基礎データ編)- 愛知豊橋・長坂なおと のblog
http://nagasakanaoto.blog.jp/171216.html 


いずれにしても、言葉は本来の意味通りに使ってほしいですし、もし同じ言葉を違う定義で使うのであれば、誤解を生まないよう事前にきちんと説明するのが筋ではないかと思います。

「プロフィットセンター」と言いつつ、年2億、30年で60億円の負担を豊橋市に求めるのは違うと思うのです。



最後に、パネルディスカッションにて、日本政策投資銀行の桂田隆行さんからご報告のあったレポートがとても参考になりそうなため、併せてご紹介いたします。
持続可能なスマート・ベニューの実現に向けて ~ミクニワールドスタジアム北九州の整備前後での比較調査を通じて~ 2018年5月
https://www.dbj.jp/investigate/etc/index.html
シンポジウムを主催・ご企画くさった、豊橋ゴールデンロータリークラブ様、ありがとうございます。

では!