最近、にわかに図書館づいています。 図書館と言えば、今話題の武雄市のTSUTAYA図書館。 そのTSUTAYA図書館に平積みにされている本、ということで読んでみました。
率直な感想、医師会怖い・・・
タイトルの「首長(くびちょう)パンチ」とは、リコール(解職請求)のこと。 つまり、市長に対して、市民がクビを突きつけた猛烈な「パンチ」。
話の中心は、佐賀県武雄市で起きた市民病院の民間委譲と、それに伴うドタバタ。 その民間委譲に、地元医師会が猛烈に反対し、最終的にはリコール、辞職、出直し選挙にまで発展するという。
できあがった体制を変えるのは、こうも大変なのかと、既存勢力はここまでやるのかと、人心のドロドロさに、ドキドキしながら読みました。 前市長時代の負の遺産、赤字の市民病院。 立地のわるい病院に新卒医師は来ないため、陥る悪循環。 このままでは、市の財政破綻につながる時限爆弾。 市は医師会による医師会立の病院化を打診するも、断られる。 独立行政法人化と民間委譲を検討した上で、民間委譲を決定。 うちうちに医師会に話をしに行くも、あとから「聞いていない」と言われる始末。 飛び交う怪文書、恨み辛み・・・
ネットで話題になる(ときに炎上する)、樋渡さんの力強い言動の裏事情が少しわかった気がしました。
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話の中で、僕が何度も共感してしまったこと、それは市長になったばかりの樋渡さんが「言葉を真に受けて」しまう点。
例えば、次は佐賀県医師会長を、副市長の大田さんと訪問したあとの、樋渡さんと大田さんの会話。 県の医師会長から 「武雄市民病院はあくまで武雄市の問題ですね。県の医師会とは関係のない話ですから」 と言われ、安堵する樋渡さんだが・・・
「大田さん、さすが、佐賀県の医師会長ともなると度量が大きかね」「だから、市長は甘いって言うんですよ」「甘いって、何がですか」「はかれた言葉を真に受けちゃいけません」「どういう意味でしょうか」「医師会でも県の会長クラスともなれば、一つひとつの言葉に裏の意味があるということです」「またまたぁ。そんな脅さないでくださいよ」「市長はほんとに素直ですね」「大田さんは、ちょっとひねくれていませんか」「だてに歳は取っていませんからね、その人の言葉をストレートに信じていいか、疑ってかかったほうがいいかぐらいは、市長よりわかっているつもりですよ」「で、大田さんは会長の言葉は信じられないと」「七三でしょうね」「七割信じていいなら、大丈夫じゃないですか」「反対ですよ」
後の選挙で、県医師会は、「どんなことをしてでもいいから、とにかう樋渡を潰せ」という指令を出したという。怖い・・・ 別のシーンでは、
「大田さん、Hさんが副市長に難癖をつけてきましたよ」「市長、その裏の意味はおわかりになりますか」「裏の意味なんてあるんでしょうか」「そこはきちんと読まないと」「そんな面倒くさいことやってられないなあ」「トップに立つのなら、人にかかわる面倒ごとは、すべて清濁併せのむぐらいの気概が必要ですよ」「うへ~、そんなのたいへんだなあ。で、大田さんの読みでは、Hさんの真意はどうなるのですか」「おれを副市長に抜擢しろ、というメッセージでしょうね」
僕も裏を読む、空気を読む、というのが苦手で、言葉は文字通り、素直に受け取ってしまいよく苦労する。 だから、樋渡さんがこうやって何度もたしなめられたり、痛い目を見るシーンは、他人事に思えなかった。 余談だけど、樋渡さんも東京大出身。 入試の現代文では、余分な感情や、自分の知識・社会背景などを除して、与えられた文章だけで読み解く訓練が徹底される(と僕は思っている)、その弊害じゃないかと思っているだが・・・(人のせい)
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そして、素敵な奥様がいらっしゃり、羨ましい。 リコール、すなわち無職になることが固くなったこの場面、
僕もリコールを覚悟した。家に帰った僕は、妻に告げた。「九十九パーセント、リコールになると思う」「はい、覚悟はできています」「リコールを受けて立つか、それとも辞職して信を問うか」「自分でしっかり考えて決めてください」「今夜は一晩、寝ずに考えたい」「わかりました。どんな結論になっても、わたしはついていきますから」
この胆力。 「ピンチのときに妻に言われたいセリフNo.1」 炸裂。 奥様とは、大阪で出会われているようなので、たぶん地元佐賀の方ではない。 当時は、樋渡さんは官僚だったので、奥様は固く・安定した生活をきっと想像されていただろう。 それが、まさか、最年少市長(当時)への立候補、そしてリコールという波瀾万丈の道をともに歩くことになるとは思ってもみなかっただろう。 そして、そういう道をいっしょに歩いてくださるパートナーがいるから、樋渡さんはこんなにがんばれるのだろう。
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不勉強ながら、TSUTAYA図書館の前にこんな大きな改革を、樋渡さんがされていたことを全く知らなかった。 元々、TSUTAYA図書館の裏話を知りたくて、手に取った本だけど、あれよあれよという間に、一気に読んでしまいました。
僕が、樋渡さんのことを知ったのは、たぶんこの本の最後に出てくる「日本ツイッター学会」が出来たあたり。 たまたま佐賀にいや友人からの情報(もちろんツイッター)で。 当時は、「佐賀県樋渡市(読めない)の武雄市長」と勘違いしていたくらいだった。
それが今や、日本で3番目に有名な市長のひとりに。さすがです。 この本、多くの方が実名で出て来るのですが、H氏(地元ケーブルテレビ局会長)、K氏(武雄市杵島地区医師会会長)、O氏(佐賀県医師会長)については、イニシャルになっていたのに、影響力のある樋渡さんからの配慮を感じました。
そして、最後まで読み進めて愕然とした。 「2010年12月7日 第1刷発行」 うん、この本、TSUTAYA図書館計画の前だ。 うん、どおりでその話が載ってないわけだ。
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武雄 "市" なのだけど、樋渡さんは作中何度も武雄市を指して、「この町」と言っており、それがなんか僕は好きでした。 最後に、そんな樋渡さんの言葉を。
今や首長は、けっして特殊な仕事ではありません。(中略)首長が誰にでもできる簡単な仕事、とはいいません。それなりの知識は必要だし、体力も求められます。打たれ強さも少しは必要でしょう。でも、そんな苦労の数百倍、いや数万倍のやりがいを感じる ことのできる仕事、それが首長です。若い首長が増えれば、役所で働く人たちの意識が変わります。役所が変われば 、地域が元気になります。地域がどんどん元気になり、活気にあふれてくれば、日本を変える力にもなる。僕はそう信じています。みんなで日本を変えましょうよ。皆さんの職業選択の一つとして、市長や町長などがあることを、ぜひ覚えておいてください。
この本LINKRARYにもあります。
では!
では!