<「あれから6年近くの月日が経ち、自分はやっぱり犯人の弟なんだと思い知りました。加害者の家族というのは、幸せになっちゃいけないんです。それが現実。僕は生きることを諦めようと決めました。 死ぬ理由に勝る、生きる理由がないんです。どう考えても浮かばない。何かありますか。あるなら教えてください」>
 
   これは『週刊現代』の「独占スクープ!『秋葉原連続通り魔事件』そして犯人(加藤智大被告)の弟は自殺した」の中で、週刊現代記者の齋藤剛氏が明かしている加藤被告の実の弟・加藤優次(享年28・仮名)の言葉である。

   この1週間後、優次は自ら命を断った。 

 (中略) 弟は兄が犯した事件によって職を失い、家を転々とするが、マスコミは彼のことを放っておいてはくれなかった。就いた職場にもマスコミが来るため、次々と職も変わらなければならなかった。

『秋葉原事件』加藤智大の弟、自殺1週間前に語っていた「死ぬ理由に勝る、生きる理由がない」:J-CASTテレビウォッチ http://www.j-cast.com/tv/2014/04/11201931.html


同じころ2014年4月7日、亡くなられた加藤優次さんと同じ28歳の青年が、こんなブログをアップしました。
皆様、おはようございます。10年前の今日、僕はイラクで拘束されました。10年前の事件で皆様にはご心配とご迷惑をおかけしたことお詫びします。

特に家族や友人、そして救出に尽力してくださった多くの方にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。その後、多くの方に支えられて今はNPOの事業で通信制の高校生たちに関わることを2年前から始めています。

これからも事件がきっかけで仕事をすることになった今の事業を学校の先生方と多くの地域の皆様、様々な企業様と一緒にやっていきたいと思います。これからも宜しくお願いします!

10年前の今日のこと、そしてこれから - NPO法人D×P 今井紀明のブログ http://blog.livedoor.jp/noriaki_20045/archives/52028045.html
当時、たまたま身近な人が彼をメディアから守る支援をしていたので、この事件には人並み以上の関心を持っている。 そして、先日、偶然今井さんご本人とお会いすることがあった。 僕よりも2つ下だけど、鋭く、しかし、優しい目をしていて、はるかに大きな存在に感じた。

今井さんは本当に、10年経っても、まだ「お詫び」をしなきゃいけないのか。 この記事への反応のなさからも、多くの人、多くのメディアが、この事件を忘れてしまっていることがわかる。 それでも、今井さんには、きっと一生忘れることのできない心の根深いところに、強く強く、この記憶が焼き付いている。
僕は高校生時代にイラクの子どもたちの現状を知り、医療支援NGOを設立しました。 10年前の2004年、その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航しました。 そして、現地の武装勢力に人質として拘束されました。
 
いわゆる「イラク人質事件」の当事者でした。
 
イラクで拘束されていた9日間は銃や刃物を突きつけられ恐ろしい思いをしましたが、ありがたいことに解放され、日本に帰国することが出来ました。
 
しかし、帰国後はその9日間が「たいしたことではなかったのでは」と錯覚してしまうほど、辛く厳しい日々が待っていました。
 
「イラク渡航は無責任である」「多大な迷惑を日本国民にかけた」「自業自得」「自己責任」…
 
「自己責任バッシング」が待ち構えていました。
 
謝罪の言葉をのべてもそれはマスメディアに報じられず、言葉の端々だけが掲載されました。
自宅には住所が最後まで書かれていない、匿名の手紙が大量に届き、無言電話も続きました。
 
札幌では、路上で後ろから突然殴られたこともありました。
 
「死ね」「バカ」「ハゲ」「恥を知れ」「バカな若者」「イラクで殺されればよかったのに」…。
 
 
今だったら、「いや、俺はハゲではないぞ!?」と突っ込めるのですが、高校を卒業したばかりの当時の自分には、すべての誹謗中傷が突き刺さりました。
 
自宅では全てのカーテンを引いて、暗い2階の部屋にひきこもるようになり、医師からは対人恐怖症だと言われました。

今井紀明/イラク人質事件から教育へ 今井紀明と考える 希望が持てる社会のつくり方 http://chokumaga.com/magazine/free/145/1/
帰国後に、これほどつらい目にあっていることを、どれだけの人が知っているのか。 もちろん、僕も知らなかった。



先日のブログで、小保方さんについて、僕は次のように書いた。
けれども、昨日の記者会見は、勝手に踊ったマスコミが、憂さ晴らしをしているようにしか見えなかった。 300人の取材陣を前に、一個人として、あの場に立ったというだけで、小保方さんは本当に立派だと思う。 見ているだけでも、僕は胃が痛くなった。 http://nagasakanaoto.blog.jp/140410_2.html


都知事選に立候補された家入一真さんの投稿。 僕を含め、多くの人が記者会見を経験したことがない。 起業家として、最年少29歳(当時)で上場し、各種メディアに取り上げられ、ネットでしょっちゅう炎上している家入さん。 そんな家入さんですら、「こわい」という記者会見。 

小保方さんは、記者会見前から、体調に異変をきたし、入院しているということ。 当たり前だ。 これまで、ほとんどメディアに出る経験がなかった人が、突然、あれだけの注目を受ける乱高下、アップダウンを浴びせられたら、健全な精神状態を保っていられるはずがない。 ましてや彼女は、組織からも切り離され、誰からも守られていない。 バッシング、あるいは、おもしろおかしく、ときにスキャンダラスに消費して、ひとりの人間を壊さないでほしい。



大きく報じられることなく、昨年末から、一つの映画が公開されています。
「自己責任」から10年、2人の今 イラク人質事件後の映画、札幌で公開へ(北海道新聞) http://www.hokkaido-np.co.jp/news/topic/530201.html

2004年にイラクで武装集団の人質となった北海道出身の2人のその後を追ったドキュメンタリー映画「ファルージャ」が4月5日から、札幌市内のシアターキノで公開される。来月で事件発生からちょうど10年。解放されたばかりの2人に浴びせられた「自己責任」批判とは何だったのか。 (中略)

 事件以後、2人は「危険なイラクに勝手に行って国に迷惑をかけた」と自己責任を問う批判や、激しいバッシングにさらされ、心に深い傷を負った。

 今井さんは、大学での友人との出会いをきっかけに自分を取り戻し、一昨年、大阪でNPO法人を設立。中退や不登校を経験した通信制高校の生徒の進学、就職を支援している。

 高遠さんは、今も1人でイラクの子どもたちの医療支援を続けている。ファルージャでは先天異常の新生児が急増しており、イラク戦争で米軍が使った兵器との関連が疑われている。

 他者のために自らの責任を果たそうとする2人。一方であの時、批判する側にいた人たちはどうしているのか―映画は問いかける。既に全国各地で上映され、東京では深夜でも満席の劇場が出ている。
 
映画 『ファルージャ イラク戦争 日本人人質事件 …そして』


加藤優次さんも、今井さんも、そして小保方さんも、僕とほぼ同じ年。 本当に彼らは、そんなにひどいことをしたの?

では。
140415